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AとZ、日常と非日常を行き来するアンリアレイジの服づくり。それを可能にするチームの存在

森永邦彦(アンリアレイジ)

ファッションデザイナー森永邦彦さん率いるアンリアレイジのロゴは、AとZを重ねただけのシンプルなものだ。そこにはAからZまでの距離はとても遠く感じるが、実は背中合わせになる可能性があるという意味が込められている。あまりにも大胆な考え方だ。が、これこそアンリアレイジの服づくりの本質とも言える。日常と非日常、リアルとバーチャル、色があるものと色がないもの、着られる形と着られない形。対極にあるものをいかに交わせるか。それを森永さんは常に考え続けているのだ。例えば、パリコレデビューを果たした2014年秋の2015S/Sコレクションでは、「光と影」をテーマに、ライトを浴びると白い服が影のような薄い黒に変化する斬新な見せ方で、現地に訪れた人々を驚かせた。そして、シーズンごとにテーマを変える実験的な手法と、テクノロジーを大胆に取り入れる服づくりへのアプローチは、4年の月日を経てさらに研ぎ澄まされている。その領域にまで到達するために、森永さんはどのような試行錯誤をしてきたのだろうか。特にチームづくりという側面にフォーカスして話を伺った。

づくりにおいて接点がなかった人とのセッション

——2014年のパリコレデビュー以来、森永さん率いるアンリアレイジはさまざまな挑戦をしてきたと思うのですが、特にチームづくりにおいて心がけていることはありますか?

森永さん:パリに舞台を移してからは、意識的に既存の枠にとらわれないようにしています。それこそ、サカナクションの山口一郎さんに音楽をつくってもらったり、真鍋大度さんに演出をお願いしたり。もっと広義な意味で考えると、そもそもの服づくりにおいて接点がなかった分野の人たちと一緒に仕事をする機会も増えています。例えば、彫刻家の名和晃平さんとか。

 

——それは化学反応が起こることを期待しているんですか?

森永さん:ものづくりにおいていちばん怖いのって“慣れ”だと思うんです。だから、毎回違う人と組んだり、違う場所で作業したり。そうすることで、常に新鮮な気持ちで服づくりに打ち込めるんですよね。

 

——そうやって新たな人と一緒に仕事をするときは、先にコンセプトを考えて、そこに必要な人を呼んでくるのでしょうか? それとも、魅力的な技術を持つ人と一緒に何か取り組むためにコンセプトを考えるのでしょうか?

森永さん:どちらのケースもありますが、基本はコンセプトが先ですね。それを実現できる人を見つけてきます。でも、ある人の才能や技術からインスピレーションを受けることももちろんあって。その場合は技術的なところから始めます。

——現在、アンリアレイジはパリを発表の場として選んでいるわけですが、年に2回あるコレクションにはどのように臨んでいるのでしょうか?

森永さん:基本的には春夏、秋冬のシーズンごとにテーマを考え、それから素材や技術、そして人をアサインしていきます。なので、半年ごとにゼロからつくっている感覚です。

 

——チームづくりはいつからスタートするんですか?

森永さん:テーマが決まってからですね。でも、それまでの構想にすごく時間がかかるんです。なんとなく輪郭が見えてくる頃には、制作期間がもう2ヶ月くらいしかなくて。

 

——残り2ヶ月! そんなに短期間だと新たに携わることになったスタッフからは驚かれることも多いのでは?

森永さん:ほとんど無茶振りに近いです。例えば1ヶ月でやってほしいとお願いして、「時間の単位間違ってない? 1年でしょ?」って言われたこともあります(笑)。でも、その尋常じゃないスピード感の中でなんとかやってほしい、と。もうその期間でつくらないといけないので。

 

——時間がない中で刺激的なやりとりが行われているんですね。

森永さん:とにかく時間がタイトなのにも関わらず、今までにないつくり方や技法を試そうとするので、アンリアレイジの仕事ってすごく大変だと思うんですよ。スケジュールも進行と共にどんどん変更になるし、精神的にも肉体的にも追い込まれていくので。だからこそ、何回も同じ修羅場をくぐり抜けた人たちの絆はすごく深まっていると思います。

 

——2015年11月1日に放送された『情熱大陸』では、山口一郎さんがパリコレクションに挑む姿が映し出されていましたが、本当に直前までいろんなことをやっていましたよね。それこそ、不眠不休で。そういうふうに、常に更新していく姿勢を貫き通せる人だからこそ、一緒にできているのかもしれないですよね。

森永さん:僕も含めて本当にギリギリまでこだわりたい人間が集まっているから。もっと面白くできるんじゃないかという強迫観念みたいなものが常にあって、終わることがないんです。何かに取り憑かれてますよね、本当に。でも、シーズンごとに区切りがあるものなので、「このテーマはもう二度とできない」という心持ちでいつも臨んでいます。

パリコレデビューから4年。それでもまだ達成感はない

——パリに挑戦するようになって4年ほど経っていると思うのですが、それでも飽き足らないわけですね。まだ挑戦者という気持ちはあるのでしょうか?

森永さん:もちろん。僕からしてみたら、まだ4年という感覚です。いつでも初回のような緊張感がありますね。それは東京とパリという距離の問題なのかもしれませんが。自分たちが外から中に入っていく感覚はあります。

 

——パリコレに参加することで、森永さんやアンリアレイジに変化はありましたか?

森永さん:東京コレクションに参加していたときは、自分たちのやっていることが日本以外に届いている感覚がなくて。その点、パリに発表の場を移してからは世界中のジャーナリストに見てもらえるようになり、今までにない国からオファーが来るようにもなりました。それによって僕たちの服が各国の店舗に広がって、世界にも需要があることがわかった。その点は大きかったですね。

 

——その気づきによって、よりグローバルに展開しようという気持ちになったりしているんですか?

森永さん:どうなんでしょうね。もちろんグローバルを意識してやってはいるんですけれど、自分の目指しているところはそこから外れているものが多いんです。それこそ、誰も気づかないことをすくいあげて広めたいという価値観でやっているので。だから、グローバルというよりローカル的なのかも。自分たちにしかできない服づくりとは何か。それを今は強く意識しています。

今探しているのは、服と消費の関係をアップデートしていく方法

——実際、満足いく形になってきているのでしょうか?

森永さん:大体のことはまだ達成できていないですし、満足する日なんて遥か先にあります。僕らは、日常の隙間から見えるものだったり、日常からこぼれ落ちている非日常的なものをもっと当たり前にしていきたいんです。でも、ほとんど実現できてない。それをクリアしていくためには、新しい服をつくって発表するだけでなく、もっと自分たちの売り方や伝え方もアップデートしていかないとダメだと最近は感じています。

 

——そのために取り組んでいることはあるのでしょうか?

森永さん:消費の形がすごく変化している中で、変えていく部分、変えずに残していく部分、そのバランスをあらためて考えています。

 

——服と消費の関係についても工夫するフェーズに差し掛かっているわけですね。

森永さん:例えば、パリで発表した後にアンリアレイジの服が世界のさまざまな場所に置かれていくとして、服を欲しいと思った人がそこにたどり着く確率はどのくらいなのか。そして、それが今の時代の需要と供給の成り立ちと合っているのか。僕たちやそれより上の世代だったら、従来通りでよかったのかもしれません。でも、これから先のブランドは、新しいツールを使って今までと違った方法を模索していく必要があると思うんです。

——森永さんとしてはどのように考えているのでしょうか?

森永さん:もう世界中どこにいても情報を発信できる環境にあるわけだから、わざわざパリに行かなくても、ブランドの価値を伝えていくことは可能です。でも、パリにまで足を運ぶからこそ、見れる景色や得られる価値があると思っていて。そこで何を吸収して、何を捨てるかに意識的になりながら、さらに先にある“服がどのように着られるか”へ思考を尖らせていきたいです。服って、実物を見ることはもちろんなんですけれど、袖を通して初めて価値が生まれるものだと思うので。

 

——その“服がどのように着られるか”を考えるにあたって、取り組んでいることもあるのでしょうか?

森永さん:ふたつあります。ひとつは他のジャンルと協業し、ファッションへの入り口や種をつくることで領域を拡張すること。もうひとつは、やはり洋服を売ることに拘りたいな、と。アンリアレイジは洋服屋なので、小物ではなく洋服を売りたいですし、安価なTシャツではなく、自分たちにしかつくれない形や素材の服を世界で売りたい。そのためにショーを続けているんです。

 

——その挑戦を続けていくうえで、今後取り組みたいことはありますか?

森永さん:古典と前衛を合わせるようなことができたらと思っています。テクノロジーを駆使するんだけど、服としての着地はすごくアナログとか、太古から存在する服にまつわる現象に、テクノロジーのエッセンスを加えてみるとか。特に今は古着、古本、古道具などに未来の可能性が満ちている気がします。流通がバーチャルになって服を販売するプラットホームがWeb上にたくさんできたからこそ、そこで伝えられない質感や触り心地というリアルなものを求めたいんです。

PROFILE

森永邦彦

1980年東京都生まれ。早稲田大学卒業。大学在学中にバンタンデザイン研究所キャリアスクールで服づくりを始め、2003年に「アンリアレイジ」を設立。「AN・REAL・AGE」とは“日常、非日常、時代”を意味する。「神は細部に宿る」という信念のもと、遠回りすることに価値を置いた服づくりを追求する。2006年A/W東京コレクションでKEISUKE KANDAとともに「東京タワー大展望台」を会場にランウェイデビュー。2015 S/Sでパリコレクションデビューを果たす。

写真・室岡小百合 編集/文・村上広大

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