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フラットで非効率なクリエイティブ集団、「nor」って何者?【後編】

nor

2017年に発足したばかりのクリエイティブレーベル「nor」(ノア)。3331αが主催した「Art Hack Day2016」でチームを組んだことがきっかけとなり、同名義で活動をスタートした彼ら7人は、“人工生命”や“共感覚”など世の中が定義しきれていない領域へアプローチし、テクノロジーやサイエンスによる拡張表現をテーマに作品を発表。毎作、デジタルとアナログを柔軟に横断しながら、新しい視点を提示する。聞けば作品のテーマを決める時は、みなが納得するまで話すそう。「何でも話せるフラットな関係性です。仕事では、こうはいかないですね」と全員が口を揃える。(写真左から、板垣和宏さん、小野寺唯さん、福地諒さん、林重義さん、松山周平さん、カワマタさとしさん、中根智史さん)。現在、norの作品は「ICC」(NTTインターコミュニケーション・センター)に展示され、次の舞台は六本木アートナイト。新作を発表する予定だ。座談会の後半では、クリエイティブレーベルとしてのあり方、今後の活動について聞いた。

ーー“クリエイティブレーベル”と表現されていますが、みなさんはnorというレーベルに所属しているアーティストであり、チームではないんですよね。

一同:そうですね。

小野寺さん:必ずしもメンバーが不動のものというわけではなくて、プロジェクトに応じて最小の単位にもなりうるし、あるいは外部の方をアサインすることも大いにありうると思っています。

松山さん:全員で作品を作らなくてもいいと思うんです。前にメンバー内の3人だけでハッカソンに参加して、その時も賞をいただいたということがありました。そういう意味ではnor内でコラボしてもいいし、誰かを引き入れてもいいし。確固とした目標が定まっているわけでもないので、その柔軟性を残しておくためにも、チームというよりはレーベルのほうが後々までやりやすいと思っていて。

板垣さん:もともと、仕事以外の活動をやっている人間の集まりなので、チームとかユニットみたいな、この集団でやらなきゃいけないっていう縛りはそれほど意識していないですね。

福地さん:小野寺さん、松山さん、板垣さんの3人で作った作品があるんですが、クレジットとしてはその3人でも、norのポートフォリオに挙げているんですよ。お互いにいろいろなところでやったものをnorの活動として集積していくと、知見が広がるし、扱う領域にも幅がでます。それに、norの存在、ひいては日本のアートシーンを多くの人に知ってもらえるチャンスも広がると思っていて。このまま、この形で作っていくことでクリエイターはどこに到達できるのか、ということを自分たちでも探っている最中です。

ーーその先にあるものの一つとして、マネタイズに関してはどう考えていますか?この形で作品を作っていたら、いろいろな企業からオファーが舞い込みそうですよね。

小野寺さん:じつはもう、既にそういう話も出ているんですが、チームの発足の経緯も含めてマネタイズがいちばんのプライオリティではないので、みんないま悩んでいるんですよ。ただし、期待してくれた方々にはできるだけ応えたいなっていう気持ちは全員持っているんですけれど。

福地さん:全員norとは別の仕事でお金をもらっていて、だからこそnorでは作ることだけに専念できるっていうのがあるんです。それが結果として結びついてきて、いろいろな話をもらいはじめているという現状になりつつあるので、norの理念に共感し、歩調を合わせていただける人たちとは一緒に動きたいな、と思っています。

 

ーー小野寺さんがおっしゃった「norらしさ」ってどういうものだと思いますか。

小野寺さん:僕らもよく分からないんですよね。

カワマタさん:最初の作品も、誰よりもテーマについて考えた自負こそあれど、どこが最優秀賞をいただけた要因なのかは誰も分からなかったんです。後日、評価してくださった先生のところにインタビューしにいき、ようやく腑に落ちるぐらいで。日々の活動も全部そうです。音と色の共感覚をテーマにしたインスタレーション「herering」も、来場者の皆さんが楽しんでいる姿を見て、やっと自信をもつことができたぐらいです。

中根さん:制作プロセス中、僕らは実験している感覚が強いので、まだ世にないという観点では作品について自信をもっているんですけど、体験は個人によって受け取り方が異なるので評価基準がムズかしくて。同時に、だからこそ楽しいっていう。

カワマタさん:だいたい、林さんが「誰かに見せろ」って言うんですよね。ある程度形になってきたら、第三者に見せてって言われますね。

福地さん:そういう意味でいうと、「クライアントワークの考え方でアートを作っている」というところが、norらしさの一つかもしれません。そのクライアントっていうのが、お客さんなのか、アート展のテーマなのか、またはnorでやりたい軸なのかという違いがあるだけで。そこに対して、自分たちがいまできる中で最適なものは何だろうかって徹底して詰めていくわけだから。クライアントワークの考え方を持ちつつ、モノとしてはやっぱり自分たちが好きなアートを作っていますね。

ーー今後の活動方針についてお聞かせください。

林さん:今は六本木アートナイトに向けて新作を作っています。六本木アートナイトの作品は、レーベルとして有機的に変化する組織体として、新たに科学者に参画してもらい、アナログ・テクノロジー・サイエンスをかけ合わせた新しい実験とチャレンジをしています。自分たちも見たことがないものを、いま作り出しているところです。

カワマタさん:林さんがいろいろテーマを持ってきてくれ、投票で何をやるかを決めているんですよ。いま言ったものは結構みんなが共通してやりたいことだったりとか、次にnorとしてチャレンジしたい領域だったりとか、norとしてやっていない領域だったりとかしますね。

板垣さん:あと、最近展示とか演出の話の相談を受ける事が有るんですが、具体的な話にするには、受託組織が個人の集まり(つまり任意団体)であることが原因で頼みにくいと言われることが有るんですが、そうゆう理由で機会を失いたくないと思うんです。でもその場合、組織化するとしても株式会社にするのか社団法人にするのか、どんな形がいちばんいい選択なのかは悩ましいです。この形で活動しているとずっとついて回る問題ですね。

松山さん:すでに決まっている仕組みのせいで、活動に制限をかけられなきゃいけないような状況は、アーティストが活動していく上での大きな課題だと思います。

福地さん:ただ、僕はこのレーベルというチャレンジングなやり方をうまく保ちつつ、「作る」ということを考え続けることで突破していけるんじゃないかって思っています。思いっきり作ることだけに特化したこの集団を維持することで、限界突破できるところがあるんじゃないかなって。

小野寺さん:そういう自由な振る舞いができる状況を保持することによって、一般的な視点とは違う角度から新しいものの見方や価値を提示していきたいと思っているので、この状況の継続が大事だと思います。

板垣さん:クライアントの顔色を窺ったりせず、誰にも気兼ねすることなく、自分たちの作りたいものを作っていきたい、というのはありますね。

福地さん:うまくクライアントワーク的な考え方を取りいれつつも、アーティストとしてただ、誰かのお金をもらって作り続けるという形以外の形を探せればいいなと思っています。

PROFILE

nor

建築家、デザイナー、音楽家、エンジニアなど様々なバックグラウンドのメンバーで構成されるクリエイティブレーベル。メンバーは普段会社員やフリーランスとして働く傍ら、norではプライベートワークとして活動している。「nor」という名前の由来は、数学のn進数とorを合わせた「n + or」、論理演算子で定義されていない集合を表すnor、そしてノアの箱船のノアと3つの意味がある。

プランナー/クリエイティブ・ディレクター:福地諒
ハードウェア・エンジニア:中根智史
ソフトウェア・エンジニア:松山周平
サウンド・プロデューサー:小野寺唯
アーキテクト/エクスペリエンス・デザイナー:板垣和宏
デザイナー・モチベーター:カワマタさとし
プロデューサー/プロジェクト・マネージャー:林重義

写真・三宅祐介 文・井上結貴 編集・紺谷宏之

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