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プロデューサーは「せっかちな心配性」であれ。 ヒトトヒト代表・稲垣氏の語る、心を動かすイベント起点のプロモーション

株式会社ヒトトヒト

インターネットにおける企業コミュニケーションでは、「リーチ数」がその広告効果の指標の中心とされてきた。しかし、人の心を本当に動かすことができたのかを、その数字だけで判断することは難しい。多くの企業が消費者の強いエンゲージメントを求める中、むしろ「リアルな場の価値は高まっている」という。そう力強く語るのはイベントプロデュースの大手TOWを経て株式会社ヒトトヒトを創業した稲垣貴宣さん。 ヒトトヒトはインディペンデントな会社でありながら、イベントを中心としたアクティベーション視点でコミュニケーション設計を行い、“青い寿司”で話題を読んだBIGLOBEの「大地球寿司」や、ジョエル・ロブションで開催されたヴーヴ・クリコのシャンパンのPR企画など、幅広いジャンルの仕事を手がけてきた。人の心に刺さるこうした体験はどのように生み出されているのだろうか? プロデューサーに必要とされるという「感度の磨き方」「段取り力」について話を聞いた。

心を動かす企画は、交渉の積み重ねで生まれる。

ーー稲垣さんがヒトトヒト設立後に手がけられた「大地球寿司」のイベント、拝見しました。カッパ姿の寿司職人が提供する青いシャリの寿司、すごいインパクトですね。

稲垣さん:すごいキレイな色ですよね(笑) 味にもしっかりこだわっていて美味しいんですよ、このお寿司。

「大地球寿司」のシャリが青いお寿司。
「大地球寿司」の店舗内装。壁のデザインはSIMカードがモチーフとなっている。

ーーこれはどういった経緯で生まれた企画なのでしょうか?

稲垣さん:これはBIGLOBEさんのSIMがいかに格安であるかを、味覚を通じて体感できる「大地球寿司」という企画です。同社の格安SIMの最安値プランは1ヶ月400円という金額なんですが、同額の400円で6貫お任せの握り寿司の食べ放題を体感できるというポップアップストアです。

 

ーー稲垣さんはプロデューサーとしてどんな業務を担当されたのでしょうか?

稲垣さん:かっぱ寿司さんとのコラボレーションによる「スシホーダイ」キャンペーンの火付けとなるようなイベントをという依頼を受けて、弊社で企画から実施までを担当しました。私がお話をいただいた時点では「大地球寿司」という大枠のコンセプトが決まっていた段階でした。そこからお店を探し、お店の内装デザインを行い、実際にオペレーションを組み立てる。同時並行で、寿司を青色に染める食材の研究を行うなどして企画に形づくっていきました。味に影響のない食材を探し、どんな素材で青くするのか、素材の割合をどうするのかというところにはかなり時間がかかりましたね。

1ヶ月半の短い制作期間でしたが、店舗でのイベントを形にしていくなかで、音楽もあった方が楽しいんじゃないかとアイデアが浮かび、globeのマークパンサーさんにオリジナルテーマソングを製作していただいたんです。店舗で流すのはもちろん、キャンペーンのPRのためにアドトラックを走らせたりもしました。短い期間でイベント業務に加え楽曲制作も行って大変だったのですが、やっぱり細部までこだわらないと良いものはできませんから。マークさんにもかなり無理を聞いていただきました。

 

ーー短い期間でこのイベントを企画するとなると、かなり交渉が大変だったのではないでしょうか?

稲垣さん:良い企画は良い交渉の積み重ねから生まれますからね。大切なのは、ご協力いただく方に高い熱量でしっかりとメリットを提示すること。交渉においては、普段から関係性を保っておくことが大切です。今回は私自身が元々通っていたお店でしたし、大将も企画を面白がってくれたのでご協力いただけました。

株式会社ヒトトヒト 稲垣 貴宣さん

いいイベントをつくるための、5つの要素

ーー稲垣さんはこれまでのキャリアでは、一貫してイベントのプロデュースをされていたと伺いました。前職はTOWでチームリーダーを務められていたとのことですが、なぜ独立をされたのですか

稲垣さん:もう3年も前の話ですが、前職のTOWではプレイングマネージャーとして十数人の部下を率いる立場にありましたが、キャリアを重ねるうちに、段々とマネジメント業務の比重が高まっていきました。僕自身は現場が好きだったこともあり、独立してもっと現場に、ひとつひとつの案件に力を入れたいなと。

 

ーーとはいえ、これほど大きなプロジェクトを手がけるのであれば、リソースが潤沢な大企業の方がメリットがあるのではないでしょうか。

稲垣さん:仕事の成否を左右するのは、クオリティ、スケジュール、コスト、リスク、スタッフィング、この五角形のバランスです。DJが音の配分を考えるように、与えられた要件のなかでこれらを最適化していくのがプロデューサーの役割です。例えば納期の短い案件であっても、予算があればスタッフィングを厚めにすることでクオリティをあげることは出来ますし、予算が少なくとも準備期間を取れるのであれば、高いクオリティを実現することが可能になる。

弊社のように機動力しかない組織であれば、大企業よりも早い納期、かつコストをある程度抑えて高いクオリティを維持することができるというメリットがあります。大組織のような人的リソースはないですが、前職時代同様に外部メンバーと協力して補うこともできますし、適切な役割分担を行うことでクリアできます。また、大きな会社の看板を下ろして、個人と個人の関係で仕事をしたいという思いもありました。インディペンデントな存在でありたいというか。

ーー社名にはそうした思いが込められていたんですね。

稲垣さん:幸い、独立前も私個人を信頼してお仕事させていただいた得意先もあったので、独立後もほとんど変わらず、お付き合いをさせていただいています。会社は社会のためのものであり、どんな立場で仕事するにせよ、社会や業界に何か還元をしたいという思いはあります。

この業界はプロフェッショナルなフリーランスの方々が現場を中心に、様々な業務を支えているのですが、年齢や、体力など、いろんな要因で離れていってしまう。だから、そんな、今の環境を少しでも改善できたらいいな、と。

もちろん、マネジメント業務にあたったり、代理店やクライアントなどのマーケティング部門に移るというのは一つのステップアップの形ではあるのですが、現場が好きな方がずっと現場で働き続けられる環境をつくりたいですね。いつまでも”生涯現場”。そんな思いで、20年後の僕もいられたら幸せで、すごく素敵ですね。

 

ーー稲垣さんが考える現場の仕事の魅力とはどんなものでしょうか?

稲垣さん:一番は来場者の反応がダイレクトにわかることですね。「共感の時代」と言われてますけど、目の前で笑顔になる以上の共感ってないですよね。イベントは唯一の、嘘のつけないメディアなんですよ。リーチ数ではインターネットに及びませんが、深く心に刺さるのはイベントだと思っています。だからこそ、ネットが進化すれば、リアルの価値は逆に上がっていくと思っています。

 

ーー最近ではインターネット上のコンテンツもターゲットへの深いエンゲージメントが求められる傾向にあります。

稲垣さん:現場が最大の営業行為なんですよね。数値化しやすい、しにくいの違いはありますが、良い結果が次の仕事を呼ぶというのは、どんな仕事にも共通することではないでしょうか。良いイベントを納品できれば、必ず次につながる。だから余計な営業はせず、いい本番を積み重ねていくことにつきますね。次に仕事が来ないっていうのは100点じゃないってことなんです。

事前の準備をどれだけ頑張っていても、当日うまくいかなかったら60点以下です。求められたことを全部実現すると100点ですが、私は常に120点を目指しています。100点を出せる人はいっぱいいますから。120点を出せば、自然とお客さんが笑顔になる。すると、それを見ている関係者やクライアントも笑顔になるので、現場の僕らも笑顔になる。そういうスパイラルが生まれるんですよね。仕事をしていてこれ以上嬉しい瞬間はないですね。

120点の仕事を生むために、『ベタメーター』を常にレベル合わせしています

ーーそうした120点の体験を作り出すために、稲垣さんは何を心がけているのでしょうか。

稲垣さん:お客さんの適切なインサイトを見つけ出すために、感度を磨くことですね。あくまで自分の感度に基づいてしか、体験は生み出すことはできないので。なので、究極的には自身の感度を磨くしかないですね。

 

ーー感度を磨くために取り組んでいることはありますか?

稲垣さん:自分が気になったものに加えて、世の中で話題になっているものは必ず観るというのは15年以上続けていますね。ドラマや映画をチェックしていると、ヒットしている作品の共通項、時流がないか探っていきます。これが自分の好きなものだけに偏ってしまうと、世の中の人が求めるものを掴むことができないので、「今は何がベタなのか」を知るのは意識しています。自分では勝手に『ベタメーター』と読んでいます(笑)。

稲垣さん:例えば、脚本家の宮藤官九郎さんや、マルチな才能を発揮しているリリー・フランキーさんは、以前はかなり尖った存在として認識されていたと思うんですよ。ですが、最近では、NHKなど多方面でご活躍され、広く受け入れられていますよね。彼らは、いまの世の中では、ベタな存在になってきている。彼らの原点はエッジの効いた表現だったと思うのですが、世の中の「ベタメーター」が少しずつ変わってきていると思うんです。そのズレを更新せずにいると、インサイトを見誤ってしまいます。

 

ーー自分の感性を社会に合わせていくと。

稲垣さん:はい、そうですね。自分の感度を、常にベタであるようにレベルを合わせたいと思っています。いつもそうですが、ベタな感性で考えるようにしています。例えば、昨年高級シャンパンブランドとして知られるヴーヴ・クリコのイベントをお手伝いさせていただきました。

実は創業者のマダム・クリコは最初の女性起業家とも言われているのですが、そうしたブランドの成り立ちを踏まえ、同社は革新的な事業を成功させた女性を表彰する「ヴーヴ・クリコ ビジネスウーマン アワード」を世界中で行っているんです。弊社はアワードの授賞式/カクテルパーティを通じてブランドの背景を表現するコミュニケーション設計のお手伝いをしました。

イベント風景(出典:https://ps.nikkei.co.jp/veuveclicquot1809/)

稲垣さん:会場は恵比寿の高級料理店ジュエル・ロブション。エントランスにはイエローのカーペットを敷き、別の世界への入り口をつくる。このイベントに参加される方はロブションのこともご存知でしょうから、あえて遠回りをして中庭を経由する会場導線を敷き、いつもと違う空間を感じていただく。エントランスをくぐってすぐにイベント会場が現れるのでは「特別感」が薄いですからね。その中で、来場者が初めて触れるであろうマダム・クリコの哲学を紹介するコンテンツを用意する。彼女の書斎を再現し、歴史を学んでもらい、ブランドストーリーを追体験してもらいます。そのあと、シャンパンを片手に、有名ピアニストの生演奏、有名アーティストのライブが行われます。

基本的には自分の経験をベースにどうしたら来場者の方々は気持ち良く過ごせるかな?と、設計していきます。その際に大事なのが、あえてお客さんの期待を裏切るような引っかかりポイントをつくることですね。やってることは編集者と同じだと思うんですよね。起承転結なのか、三段論法なのか、どの順番でベストかを考えます。誰もが思いつくコンテンツであっても、それをどういう順番で演出するか、で変わってきたりもします。

 

ーー体験というより、来場者の感情をデザインするという印象ですね。

稲垣さん:そうですね、感情のバイオリズムはすごく意識しています。飲み会と一緒で、突然盛り上げようとしてもスベってしまいます。演出は生き物なので、場の雰囲気を見極めながら、感情をコントロールしていきます。

 

プロデューサーに向いているのは、せっかちで心配性な人

ーーヴーヴ・クリコの事例からもわかるように視覚、聴覚、味覚、触覚、イベントプロデュースには多くの要素が関わりますよね。プロデューサーに大事な資質とはどのようなものでしょうか。

稲垣さん:実務上は段取り力があることですね。多くのプロフェッショナルの力を借りながら一つの企画を生み出すので、それぞれが気持ちよく働けるよう完璧な準備をすることが求められます。マメに、泥臭く、一つ一つの準備をしていくこと。それが一番重要なプロデューサーの仕事だと思います。

マインドとしては、せっかちで心配性であるということですかね。多くの業務が同時進行していく中で、いかに早く不安を取り除き、本番を迎えることができるか。逆に、準備が完璧であれば、プロデューサーのやることはほとんどなくなっていくんですよ。なので、(準備段階の)事前にいっぱい心配しながら、イベント当日は暇そうにしているのが理想のプロデューサー像ですかね(笑)極端な話、自分がいなくても、本番が無事に成功できる環境づくりが大切ですね。

 

ーー稲垣さんのような、イベントを起点にコミュニケーションの設計ができるプロデューサーの重要性は高まっていきそうですね。

稲垣さん:正直、今ってイベントを含めた広告業界全体として、以前ほど元気のある方が少なくなってきているんじゃないでしょうか。でも、デジタルがここまで普及したからこそ、リアルな場の価値は上がっていますし、業界の未来も、実は明るいと思うんです。Face to Face のイベントプロデューサーという職種も、人を喜ばすことのプロフェッショナルなので、その才能はもっと他の領域にも進出していくことになると思います。

まだ独立から間もないインディペンデントな会社ではありますが、こうした思いに共感してくれる方と一緒に仕事の幅を広げていくつもりです。将来、自分の子どもや家族に「この仕事ほど、おもしろいものはないぞ」と自信を持って薦められる業界をつくっていきたいですね。

 



<Recruit Information>
ヒトトヒトではプロデューサー/プランナー候補となるアシスタントを募集しています。募集内容については下記よりご確認ください。
>>http://hito-to-hito.jp/

PROFILE

株式会社ヒトトヒト

代表・稲垣貴宣さんがTOWを経て、2016年8月に設立。プロモーション業界における経験とクリエイティブネットワークの経験値を活かし、統合的に組み合わせたアクティベーションをプランニング・プロデュースしている。

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