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「わかりやすさ」の先にある表現を追求したい。「未来の学校祭」でメディアアートを出展した博展が目指すもの

HAKUTEN CREATIVE

東京ミッドタウンと、オーストリアを拠点に40年に渡り「先端テクノロジーがもたらす新しい創造性と社会の未来像」を提案し続けている世界的なクリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ」がタッグを組み、東京ミッドタウン内で初開催された「未来の学校祭」。2019年2月21日(木)~2月24日(日)に行われた同イベントでは、“アートやデザインを通じて、学校では教えてくれない未来のことを考える新しい場”をコンセプトに、さまざまなクリエイターや企業からメディアアートを中心とする作品が集められた。

「失敗や多様な結果に対して寛容になり、新しいものを生みだすチャレンジの心意気を育むことは、未来をつくるうえで大きな力になる」。こうした考えのもと、出展作家に与えられたテーマは「ギリギリ」というものだ。そして、出展企業の一つである株式会社博展は『センサーエラー』という作品を通じて「リアル」と「デジタル」の境界線に挑んだ。自社事業の根幹となる「リアル」「体験」というキーワードに向き合い制作した作品は、短い開催期間にも関わらず600名を超える体験者を動員し、好評を博した。

クライアントからの受託制作をベースにあらゆる空間演出を手がけてきた同社が、なぜ未来の学校祭での作品制作に挑んだのだろうか?そして、このチャレンジは今後の企業活動にどう活かされていくのか。作品が展示された東京ミッドタウンで、プロジェクトメンバーである桑名功さん、久我尚美さん、中里洋介さんの3名に話を聞いた。

デジタル空間にもリアルな人格は存在する。博展が投げかけた問い

東京ミッドタウン内で開催された「未来の学校祭」。東京ミッドタウンとアルスエレクトロニカとの協働により海外からの招待作家やテクノロジー企業などによるメディアアートが同施設内に集まった。会場に足を運んでみると商業エリア内の展示とあり、メディアアートがより身近になる会場設計となっていることがわかる。施設内に点在する展示スペースの一角で、博展の展示は行われていた。

大型のヘッドマウントディスプレイをつけた体験者がブースの中央に立ち、身振り手振りで何かを表現する姿が東京ミッドタウンという商業施設内で異彩を放つ。『センサーエラー』と題されたインスタレーション型の作品に多くの人々が興味を示し、展示スペースの前には多くの体験希望者が列をなしていた。

そのブースの入り口に設置された作品キャプションには「私のリアルとデジタルの境界はどこにあるのでしょうか」という言葉。そして、隣接した32台のタブレットにはこれまでの作品参加者の姿が映し出されている。『センサーエラー』がどういった作品なのか、体験者にはほとんど情報を与えられていない。

これはどういう作品なのか。体験者の一人として答えを明かそう。体験者がヘッドマウントディスプレイを装着すると、そこに映し出されるのは、ブースの上部に設置されたカメラを通じて俯瞰から捉えられた自身の姿。ディスプレイに表示された指示に従ってブースの中央に立つと、「ギリギリを伝えてください」という指示だけが与えられる。15秒の思考時間が与えられた後にカウントダウンが始まり、体験者には15秒の制限時間の中でその回答が要求される、というものだ。数分後、ブース正面のカメラから同時に撮影された自身の姿がモニターに映し出され、体験者は自身の表現した「ギリギリ」の姿に再会する。

 

HAKUTEN CREATIVEプロジェクトチームが制作したリキャップムービー

 

デジタル空間内で俯瞰した視点だけ与えられて行った表現は、体験者が思い描いたものとは必ずしも一致せず、後に正面のカメラ映像を確認した際に、意識の「ずれ」を自覚することになる。録音機器を通して聴いた自身の声に違和感を覚えたことはないだろうか? 自身の行為と客観的に向き合ったときに感じる違和感が、映像を通じて体験者に提供されるというのが、この作品の構造だ。そして、その違和感の正体こそが「リアル」と「デジタル」の境界線なのである。

この作品に参加した方々の様子を眺めていると、うまく表現ができていなかったもの、自身の動きに首を傾げるものなど様々な反応が見られた。『センサーエラー』という作品に込められた意図とはどのようなものだろうか?

 

クライアントワークではないからこそ生み出せた新しい体験

まず疑問に思ったのが「リアルとデジタルの境界線」を体感するという作品のテーマが、どのようにして生まれたのかということだ。制作を担当した株式会社博展 クリエイティブディレクター桑名功さんはにその疑問にこう答える。

桑名さん:僕たちの思ってるリアルとデジタルの境界線はどこか。今こうして話をしている僕はリアルな存在だとして、インターネット上で現れる僕の人格は、はたして本当にリアルでは無いのか。デジタルコミュニケーションが主流となった今、リアルとデジタルの境界はどこにあるのか?そうした疑問から、その境界線を問う体験型の装置という作品の原型が浮かび上がってきました。

株式会社博展 クリエイティブディレクター 桑名功さん

体験者が自身のアバターに乗り移り、俯瞰の視点が与えられる。こうした作品の設定はゲームからヒントを得たものだと、プランナーの中里さんは話す。

中里さん:意識だけがデジタル空間に置かれ、その体を操る自分という捻れの構造によって ”リアルとデジタルの境界線上にいるような” 感覚を提供できるのではないかと考えました。

株式会社博展 プランナー 中里洋介さん

博展は様々な領域の空間設計を通じたコミュニケーションデザインを行う、クライアントワークを主とした企業だ。彼らの仕事がデジタル化し、領域を広げていることは過去のインタビューにおいて触れた。今回、未来の学校祭に参加し『センサーエラー』を製作する過程で、あらためて「空間」とは何か、「リアル」とはなにかを見つめ直す必要性を感じたという。

クライアントからの依頼ではなく、自主的にメディアアートを製作するという、企業としても初めての試み。製作にあたっては、社内公募により約30名もの有志のメンバーが集まった。それぞれが作品の方向性をブレストしながら、博展の事業フィールドと関わりの深い「リアル」という言葉が浮かび上がったのだという。

桑名さん:クライアントワークとの大きな違いは、ターゲットとなるお客さんがいないこと。普段は与えられたテーマに合わせて表現をチューニングして作品を形にしていきますが、今回は”ギリギリ”という言葉をどう解釈するか、作品のテーマをどう設定するか、そして誰に向けた表現にするかまでゼロから作り上げてきました。

中里さん:加えて、僕らが目指したのは一つのメッセージを伝えるようなものではなく、プラットフォームの中であらゆる解釈を与える作品。最終的にはかなり実験的な要素が強いものになりました。作品を通じて体験者も考え、僕らも考える。そのきっかけを提供したかった。

実験的という言葉の通り、体験者に事前に与えられる情報はかなり少なく、その概観は作品に参加しなくては掴むことはできない。そうした導入部のハードルをあえて高く設定したのは「不可解なものが目の前に現れた時、人々はどんな反応を示すのか」を検証するために意図的に設計したものだという。結果、体験者には好意的に受け入れられた。

久我さん:開催4日間を通じて、最終的には600人ほどの方々に体験していただくことができました。メディアアートに親しんでいる方の中には、概要だけを確認して通り過ぎてしまう方も少なくありません。でも、私達の予想を大きく上回る体験者数は、商業施設内の通りすがりの方が“何が起こるかわからない”という体験に興味を示してくれたのだと思います。

株式会社博展 テクニカルディレクター 久我尚美さん

美術館のような作品展示を目的とした空間ではなく、パブリックスペースで展示を行ったことが体験者の間口を広げた。体験者の反応はどのようなものだったのだろうか。

久我さん:もの静かな印象の方が大きなアクションをすることもあれば、反対に、興味津々で参加したものの、カメラや周囲の存在が気になって体が硬直していた方もいました。デジタルに慣れ親しんでいる若い世代や、WEB業界の方のほうが、直感的に状況を理解してしまうのでそうした視点に敏感になっていたかもしれません。

リアルな空間での振る舞いが、作品の中での振る舞いと大きく乖離する。その振れ幅こそが、この作品を通じて描きたかったものだという。いくつかの反応をあらかじめ予測していたものの、予想外の反応を示す体験者の姿もあった。

桑名さん:教育ジャーナリストの方が、デジタルの世界に現れる自身のイメージを俯瞰的に見つめるという構造は教育の場でも活かせるかもとおっしゃっていました。青少年のインターネット上での振る舞いが炎上に繋がることがニュースとなることもありますが、ネット上で自身がどう見えているのかを客観的に見つめる機会はあまりありませんからね。

不思議そうに自身の姿をみつめる体験者

「誰にでもわかるものばかりが求められているわけではない」。展示を通じて得た自信をクライアントワークに引き継ぐ

作品の展示を振り返り、クライアントからの課題に応えるというサイクルからは生まれない思考プロセスを体験できたことが何よりの収穫だったと3名は声をそろえた。

久我さん:普通の仕事と違い自主的に取り組んだプロジェクトで、かつ自由参加でもあったので、やらなくてもいいことではあったんです。でも、表現に挑戦することから逃げたら負けだという思いがありました。その気持ちを共有しながら作品を生み出せたことは会社にとってもプラスになると思います。

中里さん:デジタル技術を通じて、遠く離れた場所にあるものを触ったり、匂いを嗅いだりすることができる。そういう技術が普及してきている中で”リアル”という言葉の意味が変わっていくんじゃないかと思うんです。そうして境界線が無くなっていく時代に、僕らは”リアル”というものが何なのか、改めて追求する必要があります。

クライアントワークでは、失敗は許されない。そのため通常の業務では成功の確信が持てたものしか生まれない。この展示は、そうした枠組みを超えるきっかけになったという。実験的な作品に多くの人が参加したという事実はなによりの手応えだ。

桑名さん:途切れることなく参加してくださる方を目にしたことで、これまで自分は体験者に対するハードルを低めに設定してしまっていたなと痛感しました。何が起こるかわからないことも面白がってくれる。今までは安全策に走りすぎていたかもしれません。もっとチャレンジしていいんだなと勇気付けられましたね。

久我さん:誰にでもわかるものばかりが求められているわけではないということですよね。今回の展示を通じて不可解なものや考える機会を求めている方々の姿を見ることができました。反対に、わかりやすいものだけを良しとして、複雑なものをを排除する世の中の怖さも感じました。自分自身そうしたわかりやすさに流されることもあるということを見つめ直す機会にもなりました。

中里さん:デザインは理解までの時間を早める傾向にある。そんな時代に飽きてるんじゃないかと思って、あえて問いかける形にして、情報の速度を落としたんです。それでも向き合ってくれる人が多いのは新鮮に感じました。検証の結果は答えではなく、さらなる議論の踏み台として、クライアントワークにも活かしていきます。

桑名さんは、博展として初の展示作品となった『センサーエラー』はあくまで始まりだということを付け加えた。「わかりやすさ」に流されない表現を目指すことで、これまでにない空間を生み出していくことに意欲を見せた博展のものづくりは今後どのように変化していくのだろうか。展示を通してネクストステップに踏み出した同社の今後に期待したい。

 

CREDIT
HAKUTEN CREATIVE プロジェクトチーム

 



<Recruit Information>
博展では下記の職種を募集しています。
・プランナー
・テクニカルディレクター
・空間デザイナー

募集内容については下記よりご確認ください。
>>https://job.axol.jp/17/c/hakuten/entry/jobsimple

PROFILE

HAKUTEN CREATIVE

リアル体験による「感動」と「共感」を企業の成長につなげるエクスペリエンスマーケティングカンパニー。エクスペリエンスマーケティングのスペシャリスト集団として、イベントや展示会などの人と人とが直接出会う“場”・“空間”において、さまざまな体験価値を創造し、企業と生活者がふれ合う機会をプロデュースしている。

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