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発明家のように新しいビジュアルを追求し続ける、グラフィックデザイナー安田昂弘

現在VOILLDで開催中の個展「EMERGE」にて特別取材!

グラフィックデザイナー、ムービーディレクター、アートディレクターなど多彩な顔を持ち、幅広い分野で作品制作を行う安田昂弘さんの個展「EMERGE」が、1月14日(日)まで中目黒のギャラリーVOILLDで開催中です。安田昂弘さんの個展は、同会場VOILLDにて毎年開催され今回が3回目。会場には、グラフィックをベースにした平面作品約10点が展示されています。作家安田昂弘さんとVOILLDのディレクター伊勢春日さんに、展示への想いを聞きました。

安田昂弘3回目の展示、「気配」という曖昧な存在をグラフィックで体現

今年2017年も大手企業の広告やプロダクトのデザインを数多く手掛けたほか、そのエッジーな表現はミュージシャンやアーティストからの支持も厚い安田昂弘さん。NIKELABとUNDERCOVERがコラボレーションしたプロダクトライン「GYAKUSOU」のアートディレクションも話題になりました。

グラフィックデザイナー、ムービーディレクター、アートディレクターなど多彩な顔を持つ安田さんですが、プライベートではグラフィックをベースにした平面作品の制作を続けています。2015年に開催された個展「share_me」、2016年に開催された「The end of watch」に続き、3回目の開催となる本展「EMERGE」では、近年本人が着目し疑問を抱き続けてきた題材「見る」ことを軸に、「気配」という曖昧な存在をグラフィックで体現することに挑戦しています。

ーー安田さんの今回の作品は、アクリル板が使用され立体的な作品に仕上がっていますね。フライヤーで拝見するよりずっと重厚で、色味や奥行きも視覚的に違って見えました。

安田さん:写真でよく使われる加工で、紙に印刷したグラフィック作品を樹脂でアクリルにマウントしています。この加工を使うことで、作品をより平面的に、テクスチャレスな作品にすることを目指しました。

 

ーーこの手法はこれまでも使ってきた表現手法なのでしょうか。

安田さん:過去の展示を含めて3回とも表現手法は異なります。いずれも「見る」「インターネットと人間」といった共通のテーマを設定していますが、実は毎回、展示のスタートは「テーマ」ではなく「ビジュアル的にやりたいこと」から始まっているんです。たとえば、1回目の展示では「全て真っ黒なポスターで空間を埋めたらどうか」と思い、テーマとすり合わせながら作品として成立させました。2回目の展示でも、「鏡を使ったグラフィック作品をつくってみたい」というビジュアルコンセプトに整合性をとって作品をつくりました。でも今回は過去2回と逆に、コンセプトをかなり優先して、コンセプトから新しいビジュアルを開発しました。

個展「share_me」2015, VOILLD
'watch_1' UV inkjet print on acrylic plate|700×1000×10 mm|2016

ーー確かに、展示とメッセージから強い問題提起が感じられました。

安田さん:きっかけになったのは今年9月、ソウル国際タイポグラフィービエンナーレ「Typojanch」に呼んでいただいたときのこと。与えられたテーマが「フィジカルとタイポグラフィ」でした。インターネットやデジタルが台頭する時代の「フィジカル」ってなんだろうと考えるきっかけを得たんです。そのとき、キーワードとして出てきたのが「気配」でした。形がないものに人が群がったり、情報が異様な形で広がっていったり、気持ち悪い現象が起こっている。そういう曖昧な「気配」でタイポグラフィーを作れないかと試行錯誤したのが、今回DMで使用したこの作品です。

 

「気配」というテーマを思いついたことで、1回・2回と続けてきた展示を回収できた感じがしました。今までやってきたことや問題意識は、この「気配」のことだったのかもしれない、と。そこにある「気配」を表現としていかに炙り出せるか、その手法研究としてはじめたのがモアレのドローイングでした。きっとビジュアル的にも見たことがないものが作れるのではないかとチャレンジして、今回に至ります。

 

ーー安田さんがもう一方で制作されている広告のお仕事やグラフィックデザインのお仕事は、作品制作・展示とは対極にあるものですよね。作品制作の機会を自ら設けていらっしゃるのは、「表現の追求」が動機になっているのでしょうか。

安田さん:そう。シンプルにそこですね。自分が教わっていた恩師・佐藤晃一先生の教えもあるんですが、僕の中には「ずっと新しいビジュアルを発明していたい」という想いが根本的にあって。これだけ表現手法が出尽くされたと思われているグラフィック業界ですが、僕はまだ新しいビジュアルが存在すると思うんです。いや、まだあると思いたい。だから僕の基本スタンスが「新しいビジュアルってなんだろう」というところにあって。僕にとって新しいことを考えることは呼吸に近いものなんです。

ところが、その発明し続けたいと思うことが、すなわち純粋なデザインという領域と乖離していて。広告やデザインの仕事はコミュニケーションの中にあるクリエイティブなので、そこに無理やり作家性をはめたり新しいことを盛り込んだりして、自分の表現のエゴを解消するのは違う。それならば、新しいビジュアルの追求は作品として成立させたほうが面白いし、誰かに先を越される前にきちんと世に出したい。そういう想いと、作品を展示することがうまくマッチしたんです。

 

ーー広告制作などのお仕事をメインになさっている安田さんがアートギャラリーで展示をすることになった、その経緯が気になります。

伊勢さんVOILLDをオープンした際に、たまたま安田さんが遊びにきてくださいまして。以前から拝見して作品が素晴らしいことは存じ上げていました。加えて、前職で偶然、安田さんの制作されたデータを触らせてもらう機会があって。そのデータがすごかったんです。パソコンが壊れるんじゃないかと思うほど複雑なデータが送られてきて。

安田さん:Illustratorのパスだけのデータなのに200MBくらいありましたもんね(笑)。

伊勢さんそれがきっかけで、安田さんといえば、私が思っているグラフィックデザイナーとはちょっと違うことをなさっている方だと思って(笑)。お話してみると、「作品をつくる」という意識も高くお持ちで、アートにもすごく理解のある方でした。私はデザインに特別詳しいわけではありませんが、直感・感覚的に、きっとこの方はいい作品を作られるのではないかと思い、お声がけさせていただきました。

安田さん:グラフィックデザイナーが作品展示をすること自体、特に若手にはあまりないカルチャーですよね。あるとしても、大御所デザイナーのアーカイブ展くらい。それもあって「デザイナーだけど、デザインでなく作品をつくる」ということを展示では毎回目指しています。VOILLDさんとの接点がなければ、こうした発表の場は難しかったのではないかと思います。とてもありがたいです。

 

本人がそう語るとおり、展示にはインターネットの世界の現象に対する違和感と、それに対する問題提起が詰まった強いメッセージ、安田さんの新しい表現への貪欲な研究心が秘められていました。そしてその作品からは、これまでに見たことのない視覚的な「新しさ」を体験することができました。

 

[イベント概要]
日時:2017年12月9日(土) – 2018年1月14日(日)
※年末年始休業:2017年12月25日(月) – 1月5日(金)
開館時間:14:00 – 19:00(水 – 金)、14:00 – 18:00(土日)
会場:VOILLD(東京都目黒区青葉台3−18−10 カーサ青葉台B1F)
ウェブサイトhttp://www.voilld.com

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