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thaが新作ゲーム『HUMANITY』をUnityで開発中!その醍醐味を中村勇吾が真鍋大度に語る

中村勇吾(tha ltd.) × 真鍋大度(Rhizomatiks Research)

インタラクティブデザインを知るうえで“Webデザイナー中村勇吾”という存在を避けて通ることは難しい。これまで手がけてきた仕事の数々や、それによって業界にもたらした影響を考えれば言わずもがなだろう。ただ、その状況を当事者が窮屈に感じていたとしたら? 2016年に突如リリースされたゲームアプリ『GUNTAI』は、中村勇吾さん(写真・左)の新たな挑戦の始まりだった。当時は“あの中村勇吾が作るゲームアプリ”ということで、クリエイティブ業界を中心にセンセーショナルなニュースとなったが、それはまだ序章に過ぎなかったのだ。中村さんは現在、新たなゲームアプリ『HUMANITY』の開発に勤しんでいる。それも、とても楽しそうに。今回は、そんな中村さんのもとを尋ねてみた。聞き手は旧知の仲だというRhizomatiks Researchの真鍋大度さん(同・右)。話題は、ゲーム開発のことから真鍋さんが考える中村さんらしさ、そして今後の制作活動にまで広がっていく。

『GUNTAI』から『HUMANITY』。その間における進化とは?

ーー前作『GUNTAI』は、鳥の群れを操作するシンプルな設計と、その鳥たちの生死が無慈悲なまでに描き出されているところに中村さんの特異点がある気がしました。現在開発中の『HUMANITY』は、前作と比べてどのようなアップデートがされているのでしょうか?

中村さん:『GUNTAI』では群れの単位を鳥で表現しましたが、『HUMANITY』ではそれを人に置き換えています。

『GUNTAI』

 

ーーそこにたどり着いたのは何かきっかけがあったのでしょうか?

中村さん:ゲームを作り始めてから、あらためて自分なりにゲーム体験の醍醐味を考えてみたんです。それで“ゲーム内の存在に感情移入できること”が大事な要素だという、当たり前のことを思うようになって。『プライベートライアン』という映画の冒頭にノルマンディー上陸作戦のシーンがあり、人が次々と死んでいくんですけれど、けっこう衝撃的なんですよね。でも、そこで感情移入できるのは、抽象的な形ではなく人だからこそで。面白いことに、ゲームでも鳥から人に姿形を変えるだけで心理的な距離感が変わるんです。そういう要素を今回はもっと取り入れたいなと思っています。

 

『HUMANITY』

 

ーー前作と今作に共通するものとして“集合体”をテーマにしていることがあげられますが、何かこだわりがあるのでしょうか?

中村さん:昔から群れ的なものが好きなんですよね。魚群とかマスゲームとか。統率が取れているようで、ときに乱れる瞬間があるのが快感で。そうした秩序と無秩序のバランスが、人という単位になったときにどう変化するのか。それを考えながら『HUMANITY』の開発を進めています。

ーー真鍋さんは『HUMANITY』のティザーを見て、どのような感想を持たれましたか?

真鍋さん:「また面白そうなものを作ったな」と。すごく、勇吾さんらしい。ちなみにいつリリースする予定なんですか?

中村さん:2018年の春くらいを目指しているんだけど、実はどういうゲームにするのかまだ決めてなくて(笑)。現在は盆栽を長時間かけて手入れするような気持ちで開発に携わっているんですよ。全然終わりが見えないんだけど、それがかえって気持ちいいというか。いつまでも重箱の隅をつついていたい。かつてだったら3ヶ月くらいの短いスパンでプロダクトを制作していたんだけどね。

 

Unityはデザインとプログラムを行き来しやすい

ーー開発にはUnityというゲームエンジンを採用しているそうですが、どういった経緯でそこに行き着いたのでしょうか?

中村さん:2年前に3Dでプロダクトを制作する機会があって、最初はFlashを使っていたんです。でも、もう少しスピード感が欲しくなったのでUnityに切り替えたところ、仕様が僕の中ですごくしっくりきた。その時期にゲームを作りたい衝動に駆られていて、せっかくならUnityで開発してみようと。

 

ーーどのような点でしっくりきたのでしょうか?

中村さん:FlashはIllustrator的な機能が素地としてありつつ、デザイナーとプログラマーと交わるようなUI設計がされているんですけれど、Unityもそれに近いものがあると感じています。デザイン的な側面とプログラミング的な側面を行き来しやすい。

真鍋さん:Unityは今、すごく大衆性のある環境になっていますよね。3Dを扱うときにシェーダーについて調べようとすると、けっこうな割合で検索に引っかかるんです。僕が初めてUnityに触れたのって今から10年前くらいなんですけど、そのときに比べたら環境がまったく違う。普段仕事をしていると、必ずしも自分が手を動かさなくてもいいケースってあるじゃないですか。そういうときに労働力のロスが少ないんだろうなと感じます。

中村さん:ロスは少ないね。すでにフレームワークがあるからゼロベースでソースコードを構築する必要がないし、プログラミングに注力せずともそれなりのものが作れたりする。大船に乗っているような安心感があるかな。

真鍋さん:勇吾さんのようにFlashを使っていた人がUnityに移行するケースも多いんですか?

中村さん:多いと思う。個人的にコンピュータメディアで表現活動をする人は、ProcessingやopenFrameworksなどを使う「まずコードから書く派」と、DirectorやFlash、Unityなどの「まず絵から描く派」のどちらかに分けられると思っているんだけど、僕は間違いなく後者です(笑)。もちろん人によって好みに違いはあるけれど、僕にとってフレンドリーな環境がUnityだった。あと多分、C#とか、ちゃんと整備されたモダンな言語が好きなんだよね。

真鍋さん:僕もたまに新しい環境を触りたくなるときがありますね。先月は旅が多かったので、飛行機の中でRustという新しい言語を触ってました。ツールキットはUnityではなくUnreal Engineですが、コントロールはMaxからOscというプロトコルでやっていてかなり枯れた手法ですね。

中村さん:飛行機の中って集中できるんだ? 僕は映画を観るくらいしかやることがないと思っていたんだけど(笑)。

何歳になっても、ゼロからの価値創造にたぎる

ーー中村さんは『HUMANITY』を開発中ですが、真鍋さんはどういった活動をされているのでしょうか?

真鍋さん:最近は海外での仕事が多いですね。海外だと無名の新人として活動できるので楽しいです。僕たちは既得権益があるような活動形態ではないし、過去の実績も実は意味をなさない。だから、フィールドを変えることも必要だなと感じて行動に移しています。

中村さん:自分の中で成長している感覚があったり、自分のことをまったく知らない人から作品を評価されたりするのは何歳になっても嬉しいよね。僕も今は「どうやったらこのゲーム売れるんだろう」って考えている瞬間がいちばん楽しいし。

真鍋さん:僕からすると「もうどしんと構えていていいんじゃないですか?」と思うこともあるんですけど(笑)。ただ、勇吾さんのように常に変化し続けている人がいるからこそ、自分も頑張れる部分があります。

中村さん:少し前までは40歳くらいになったら集中力がなくなって何もできなくなると思っていたから、30代のうちにすべての決着をつけるつもりで働いていたんだよね。でも、いざ40歳を迎えてみたらまだまだ動ける(笑)。しかもゲーム業界だともっと先輩がいて、65歳になってもコードを叩いている方がいる。そういう人たちの姿を見て「僕もまだまだできるな」と思ったくらいだから。継続して同じ分野で活動することのメリットが少ない業界にいるからこそ、今後も守りに入らず、制作活動を続けていきたいよね。

PROFILE

中村勇吾

ウェブデザイナー、インターフェースデザイナー、映像ディレクター。東京大学大学院工学部卒業。多摩美術大学客員教授。1998年よりウェブデザイン、インターフェースデザインの分野に携わる。2004年にデザインスタジオtha ltd.を設立。ウェブ・アプリケーション・映像・TV番組・インスタレーション・ゲームなど、さまざまなオンスクリーンメディアのデザインに取り組んでいる。カンヌ国際広告祭グランプリほか、広告賞受賞歴多数。

PROFILE

真鍋大度

東京を拠点としたメディアアーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。2006年Rhizomatiks設立、2015年よりRhizomatiksの中でもR&D的要素の強いプロジェクトを行うRhizomatiks Researchを石橋素氏と共同主宰。慶応大学SFC特別招聘教授。

写真・今井裕治 文・長谷川リョー 編集・村上広大

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