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技術だけでなく「表現」で勝負できるテクノロジストへ。
リアルタイムグラフィックスデザイナー、中田拓馬

Adobe Creative Residency 日本人初選抜クリエイターの素顔

世界各国のクリエイターを支援するプロジェクトとして2015年に始動したAdobe Creative Residency。同プロジェクトの参加者は一年に渡りAdobeから支援を受けながら作品の制作に臨むことができる。5年目となった2019年、世界4ヵ国から9名のクリエイターが選出された。BAUSでは日本からAdobe Creative Residencyに参加する2名のクリエイターを追っていく。

前回の福田愛子さんに続いてインタビューを行ったのはリアルタイムグラフィックスデザイナーの中田拓馬さん。言語を超える表現に魅せられリアルタイムグラフィックスの技術を軸に仕事の幅を広げてきた中田さんは、クライアントワークと並行して行ってきた作品制作により力を注いでいくという。Adobe Creative Residencyを通じて大人も子供も楽しめるような体験型インタラクティブ作品を完成させたいという中田さんに話を伺った。

作品を通じて言語を超えたコミュニケーションを生み出したい

フリーランスとして、映像演出・VJ・インタラクションデザイン、テクノロジーを軸としたビジュアル表現で数々の作品制作を行う中田拓馬さん。オランダを拠点とするメディアアート集団「Born Digital」で活動した後、2016年よりテクニカルディレクターとしてクリエイティブチームCEKAIに所属。テクノロジーを用いたビジュアル表現を用いて、クライアントの映像演出・インタラクションデザインに取り組んできた。

リアルタイムグラフィックデザイナー・中田拓馬さん

彼がテクノロジーを用いた表現にのめり込み始めたのは、ライゾマティクス真鍋大度氏がメンバーの一員として参加していた、「night lights」というニュージーランドで発表された作品がきっかけだった。

「元々はモーショングラフィックスとか映像制作に興味があったんですが、この作品を見て、人が動いたら反応するインタラクティブな作品がつくりたいという思いが強くなりました。ただ格好いいビジュアルであればCGでも可能ですが、プログラミングをベースにデザインを行うことで新しい表現が生み出せると。ライブ性のあるものと相性が良く、表現の拡張性もあります。なにより、他の人が取り組んでいない分野だったので、自分がやる意味があると思えました」

「night lights」


Born Digital活動後、日本へ帰国。オーディオビジュアルパフォーマンス作品「Humanelectro + Σ(SIGMA)」という作品を発表した。リアルタイムグラフィックスを入り口に技術を学んでいくうちに作品の幅が広がっていった。

「Humanelectro + “∑(SIGMA)”」

中田さんがディレクターを務めた「TOYOTA DREAM CAR ART CONTEST」社長賞受賞者へ贈呈する副賞作品。絵画タッチのアニメーションがVRによって立体的に表現されている。


フリーランスとして活動後、京都に拠点を移しクリエイティブチームCEKAIに所属。ビジュアル表現を追求するクライアントワークを中心に多くのプロジェクトに参加。人生の半分以上を海外で過ごした彼が京都に拠点を置いて活動した3年間は、自身のアイデンティティと向き合う時間でもあったという。日本での仕事の地盤が固まり始めると同時に日本でテクノロジー表現を仕事にしていくことの課題が見えてきたという。

クリエイティブチームCEKAIの案件として携わった「OUT[IN]OUT」。ドイツから特注で仕入れたという透過型液晶ディスプレイはディスプレイの裏側にも空間があるという。そこに甲冑と液晶を置くという斬新な発想で制作された作品。中田さんは装置の発案とテクニカルディレクターとして参加。


「メディアアートに興味を持って仕事を始めた結果、技術のトレンドを追いかけながら制作を進めていければ仕事に困ることはないだろうという実感は湧いてきました。実際、これまでも新しい技術を学びながら、ある程度仕事の基盤が固ってきたところではあるのですが、この先のキャリアのことを考えると自分はこのままでいいのかという思いも芽生え始めました。

というのも、クリエイティブの仕事を続けていくには体力も必要ですし、今後年齢を重ねていったとき、同じような熱量と制作ペースを維持できるかもわかりません。今の日本では仕事のバジェットが上がっていくイメージもわかなかったので、一案件あたりの予算が潤沢な海外のプロジェクトにも参加することで作品制作の時間を確保しながら、健全に仕事を続けていけるなと」

同時に、言語を超えたコミュニケーションを可能にする中田さんの作品にとって、海外は作品を発表する場として魅力的でもあったという。

「日本でも海外でも、多くのイベントでプロジェクションマッピングやリアルタイムグラフィックスを用いたイベントは増えてきています。欧米では多くのアーティストが作品を発表しているのに対し、日本では一部の作家の作品を繰り返し見ることが多い。これは日本が遅れているというわけでは決してなく、島国という地理的な問題が関係しているからだとは思いますが。

僕は日本の中で活躍する一部の作家になりたいというわけでもないですし、そもそもインタラクティブな表現に興味を持ち始めたのは言葉を介さないコミュニケーションが可能になるからです。人種、言語が違うひとが一箇所に集まっている光景を自分の作品を通じて生み出したい。そのためには日本国内で活動を続けるよりも、どんどん海外で作品を発表していく方が近道なんです」

テクノロジストにはチームが必要。表現を広げるための「伝える」活動

そんな中田さんが海外での活動を視野に入れて活動を続けている中で出会ったのがAdobe Creative Residencyだった。彼の制作する作品は研究開発的な側面が強く、リサーチやテスト作業に割く時間は少なくないため、クライアントワークと並行して作品制作を行うことは簡単ではない。制作活動の支援を受けながら作品づくりに集中することができるこのプログラムは魅力的だった。

また、制作環境としても「1年という期間が設定され、ものづくりをするための時間が半強制的に確保されるのはとてもありがたい」とのこと。2019年5月よりスタートしたこのプログラムの期間中、中田さんはどんな活動を行っていくのだろうか。

「ぼくは以前から子供が大好きなのですが、レジデンシー期間中には子供向けの作品を完成させて展示をしたいですね。僕のようなテクニカルの仕事は一人で作品を完結させることはできません。デザイナーやミュージシャンなど、他の領域のアーティストと協力して初めてものをつくれる。自分の得意とするリアルタイムグラフィックスをダンサーさんやミュージシャンさんたちとつくっていきたいと思います。来年以降は、そこで作ったシステムをホテルやギャラリーで展示することで、デザインの領域の一つとしてインタラクティブな体験だったりデジタルインスタレーションを布教していける存在になれたらと思っています」

テクノロジーを用いた表現の需要が増える一方、関わっている人は非常に少ないという現状に対し、中田さん自身は自分のテクニカルディレクターとしての経験を発信していく必要性を感じている。というのも、仕事に対する専門性が理解されていなければ技術に関する「何でも屋」になってしまうという危惧があるからだ。

「仕事をしていると“どんなことをしているのかわからない”と言われることが少なくありません。その理由は二つあって、一つはテクニカルディレクターという存在自体が少ないこと、そしてその存在を伝えるための活動がこれまでされていなかったことです。例えばカメラマンがどんな活動をしているのかというのは肩書きで伝わる部分も多いと思うのですが、“テクニカルディレクター”という言葉は、その言葉の持つ意味が広すぎるんです。

この状況を変えるためには仕事のプロセスを共有し、過去のプロジェクトのアーカイブを作ることが必要だと思っています。こんなソフトを使ってこういう手順で制作しているというように、その過程をブレイクダウンして伝えていくこと。現在は自分の仕事を“リアルタイムグラフィックスを使用するデザイナー”と説明しています。限定した領域での専門性を表現することで、少しでもイメージをしてもらえるようにしていきたいです」

作品制作もクライアントワークも、ものづくりの姿勢は変わらない

Adobe Creative residencyは、2019年の5月からスタートしている。スタートから約2か月が経過した現在、中田さんは海外クリエイターとの交流の中で、自分の作品の魅力を伝える術を持たなければと感じているという。そのきっかけとなったのがAdobeサンフランシスコオフィスで行われたメディアトレーニングだ。今自分が何をやっているかを興味を持ってもらえるように短い時間で噛み砕いて、キャッチーに伝える方法を学んでいるという。

「例えば自分で答えられないことは答えない。ポジティブな反応をする。これは基本です。欧米の方は自分の伝えるべき情報を伝えられるよう会話をコントロールすることがうまいんですよね。日本で学ぶ場は少ないですが、でもトレーニングを受ければ誰でもある程度しゃべれるようになるんです。

 作家の方にはこういう訓練に抵抗がある人もいるとは思いますが、このスキルでメディア出演が決まることもあるので、間接的にですがキャリアを大きく左右します。自分がほしいチャンスを掴みたいんだったら、人の目に触れる機会を増やしていかなきゃいけないと思います」

そして、メディア上での振る舞いという点では、SNS上でのコミュニケーションも同様に重要視される。Adobe Creative Residencyにはメンター制度があり、参加クリエイターへは常にメンターからの目線向けられている。SNSを更新すればそれを見たメンターや同期のメンバーがフィードバックをくれることもあるというが、その環境は作品作りに影響を与えるという。

「Adobe Creative Residencyの過去の参加者からもリアクションがあるのですが、海外の人には何が響くかという意識が芽生えるので分析の精度が上がります。自分に目線が向いているというプレッシャーもモチベーションに繋がりますし。また、海外ではストックフォトを使って作品をつくり、SNSにどんどん公開している人もいます。これはおもしろかったですね。

例えばレジデンシーの同期メンバーであるアメリ(Amelie Satzger)は13歳からYoutuberとして活動していることもありSNS運用と作品作りを並行して行っています。ただ、いいねをもらうことを目標にしたら作品にも影響が出ますし、毎日更新しようと思ったら1つの作品を短いスパンで作らなければいけない。僕のように絵が出来上がるまでにプロセスが多い作品をつくっていると、同じようにはいきません。どっちがいい悪いではなく、クオリティを担保しながら自分の作品を伝えるバランスを身につけていかないといけません」

2019年度、Adobe Creative Residency選抜メンバー。 提供:Adobe Creative Residency

制作に対する支援があり、海外メンバーやメンターからのフィードバックがある。自由と緊張がちょうどいいバランスで与えられ、クリエイターには恵まれた環境だ。中田さん自身は、この一年間でいい結果を出せなければ、その先の活動も難しいのではないかと、プレッシャーを感じているという。

「この一年、ここまでサポートを受けながら結果が出せなかったらその先のキャリアで何ができるんだとは思いますね。至れり尽くせりな環境に見えるかもしれませんが、常に緊張感はあります」

Adobe Creative Residencyを終えた一年後、中田さんはどんな視座を獲得するのだろうか。この一年で実現したいこと、その先に続くキャリアについて聞くと、クライアントワーク、作品制作、ともに「技術を使って、意味のあるものをつくっていきたい」という答えが返ってきた。

「僕は今まで、体験を通してどんな意味を生み出すことができるか、というのを大事に制作を行ってきました。それはクライアントワークでも同様で、こういう方法を採用したらどんな技術的発展が見込めるかという視点は常にもっています。そういう意味では、作品づくりもクライアントワークも同じ姿勢でいるんですよね。ただ格好いいだけの物をつくることに興味はないし、クライアントのためだけにものづくりをしたこともない。社会実装にまでつながるものでなければ、クライアントが納得しても自分が納得いかないので」

子供から大人まで楽しめる作品を作りたいというのも、ビジュアル表現は言語コミュニケーションの課題を超える可能性を秘めているからだという。ただ、これは洗練されたビジュアルを突き詰めてこそ説得力を持つ言葉だ。面白さや格好よさがあるからこそ、多くの人に作品を届けることができる。

「僕自身がデザイナーなのかアーティストなのかと聞かれることもありますが、それは作品を見た人が決めること。テクノロジーを通じて人とのコミュニケーションを生み出したいというのが自分のモチベーションなので、自分の欲に従って作るだけですね。日本にはクオリティの高い作品をつくっている人が沢山います。今後は、そういう人たちとともに作品を世界に送り出していきたい。そのためにも、今年は自分のために集中して制作を進めていきます」

 

PROFILE

中田拓馬

1989年静岡県生まれ。京都精華大学在学中、オランダに留学し、現地のメディアアート集団「Born Digital」の一員として欧州を行脚する。帰国後は、クリエイティブチーム「CEKAI」に所属しながら京都を拠点に活動。リアルタイム映像生成ソフト「vvvv」を得意とし、VJ,インタラクションデザインを中心に数々のプロジェクトを手がける。2019年、Adobe Creative Residency選抜。


Adobe Creative Residency

Adobeが主催する、クリエイターのキャリアステップアップを1年間にわたってサポートする制度。2015年に開始されて以来、アメリカ、カナダ、ドイツ、イギリスで開催され、2019年から日本にも上陸。クリエイティブツールをはじめとした制作体制や、多方面で活躍するクリエイターからのフィードバック、生活費用や福利厚生など、クリエイターが自身の制作プロジェクトに注力できる環境が提供される。

>>プログラム詳細についてはこちら

>>もう一名の日本人選抜クリエイターインタビューも公開中。
世界で活躍するビジュアルアーティストへ。イラストレーター・福田愛子のクリエイティブが向かう先

 



CREDIT

Interviewee:Takuma Nakata
Coordinator:Ryota Kawanishi(Adobe)

Editor / Writer / Interviewer:Naoki Takahashi
Photographer:Yutaro Tagawa(CEKAI)

Producer / Account Executive:Yuki Yoshida (BAUS)
Project Manager:Koujiro Ichimura(BAUS)
Location:marimoRECORDS Togoshi Studio

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